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このページの目的
- 従来の管理会計の問題点を理解すること
- 本当に必要な管理会計の仕組みとメリットを理解すること
1 従来の管理会計の問題点
管理会計の目的は、損益改善や原価改善、資金改善、そして、設備投資などの戦略的な意思決定に必要な情報を提供することです。しかし、従来の管理会計では、これらの目的が十分に達成できない可能性があります。これから、その理由を説明します。
従来の管理会計は、下の図1のように財務会計に基づく損益計算書をベースに作成されています。
図1 従来の管理会計の損益計算書
売上高 | 1,000 |
− 売上原価 | 700 |
=売上総利益 | 300 |
− 販管費 | 100 |
=営業利益 | 200 |
しかし、これでは管理会計の目的が達成できないいくつかの問題点があります。
問題点1 変動費と固定費に分かれていないため会社が採るべき対応策が採れない
従来の管理会計では、費用は変動費と固定費に分かれていません。ここで注意したいのは、「売上原価=変動費、販管費=固定費」ではないということです。
例えば、売上原価の中には、減価償却費や正社員の給料などの固定費が含まれています。これらは、売上高の増減に関係なく一定額が発生する費用ですよね。また、販管費の中にも外注発送費などの変動費要素の費用も含まれています。必ずしも、「売上原価=変動費、販管費=固定費」ではないのです。
そもそも、なぜ変動費と固定費を分ける必要があるのでしょうか?
それは、変動費と固定費とでは、費用の管理方法が異なるからです。費用の管理方法が異なれば、会社が採るべき対応策も異なりますので、変動費と固定費を分けなければ、本来あるべき対応策が採れないということになります。
つまり、間違った損益改善や原価改善の情報を経営者や管理者に提供し、頑張っているのに損益改善できない、原価改善できないといったことになってしまいます。
定義
変動費:
売上高の増減に比例して増減する費用
固定費:
売上高の増減に関係なく、一定額が発生する費用
費用の管理方法
変動費:
変動費は材料費、変動労務費、外注加工費、外注物流費などですが、基本的には外部から購入してきたものに払う費用です。外部に払う費用は少ない方が良いですので、費用の管理方法はコストダウンになります。
固定費:
固定費は固定労務費、減価償却費などですが、いわゆるヒト・モノ・カネという会社の資源を獲得するための費用です。資源は当然有効活用すべきですので、費用の管理方法は生産性向上になります。
問題点2 付加価値の金額が分からないため利益の最大化に走ってしまう
付加価値は売ったものと買ったものの差額で、会社がどれだけの価値を生み出したのかを測る指標です。
そもそも、付加価値を把握する理由はなぜでしょうか?利益が出ているだけでは、なぜダメなのでしょうか?
下の付加価値の計算方法の加算法の式を見てください。利益は、付加価値−固定労務費−減価償却費−事業資金の金利で計算します。利益を最大にするためには、付加価値の最大化以外にも、固定労務費の削減、設備投資(=減価償却費)の削減が考えられますが、ヒト・モノは会社の資源であり、安易に削減すべきではありません。
これらの費用を安易に削減すると、給料を減らされたことによる従業員のモチベーション低下や、生産効率の高い設備への投資ができずに反対に余分なコストがかかってしまうというリスクがあります。固定費の安易な削減は、会社の資源の空洞化を招き、徐々に会社を減退させてしまいます。
そこで、会社を強くするためには、利益の最大化ではなく、付加価値の最大化を目指す必要があります。付加価値が最大化できれば、従業員にも良い給料が払えますし、生産効率の高い設備投資もできるようになります。
付加価値の計算方法
控除法:
売上高−(材料費+変動労務費※+外注加工費+外注物流費+在庫金利)
つまり、売ったものー買ったもの
加算法:
利益+固定労務費+減価償却費+事業資金の金利
<変動労務費の考え方の補足です。>
労務費はパートやアルバイトなどの変動労務費と正社員の固定労務費に分かれます。パートやアルバイトは、必要な時に、必要な人数を外部から採用してくるケースが多いため、外部への費用として、コストダウンの対象となる変動労務費として扱います。
2 本当に必要な管理会計の仕組みを構築するメリット
従来の管理会計には、上記の問題点がありますが、新しく取り入れていただきたい本当に必要な管理会計には、従来の管理会計の問題点を克服するメリットがありますので、導入を検討する価値はあります。
本当に必要な管理会計は、下の図2のように、変動費と固定費を区分して、付加価値を見える化することに意義があります。
図2 本当に必要な管理会計の損益計算書
売上高 | 1,000 |
− 材料費 | 480 |
− 変動労務費 | 60 |
− 外注加工費 | 40 |
− 外注物流費 | 30 |
− 在庫金利 | 10 |
=付加価値 | 380 |
− 固定労務費 | 100 |
− 減価償却費 | 90 |
− 事業資金の金利 | 20 |
=利益 | 170 |
メリット1 変動費と固定費が分かれているため会社の採るべき対応策が採れる
1つ目のメリットは、上記問題点1の克服です。
変動費と固定費は費用の管理方法が異なります。変動費はコストダウン、固定費は資源の有効活用もしくは生産性向上でした。
本当に必要な管理会計により、費用を変動費と固定費を分け、さらに変動費の内訳、固定費の内訳を明示できますので、どの費目をコストダウンすれば良いのか、生産性を向上させれば良いのか分かるようになり、会社が採るべき対応策が採れるようになります。
つまり、損益改善や原価改善の方向性を間違わないというメリットがあります。
メリット2 付加価値の金額が分かるため付加価値最大化を目指せる
2つ目のメリットは、上記問題点2の克服です。
付加価値は、会社がどれだけの価値を生み出したのかを測る指標であり、最大化を目指すべき指標です。
本当に必要な管理会計により、付加価値の金額が分かりますので、利益の最大化ではなく、付加価値の最大化の行動を採ることができるようになります。また、合わせて固定費の内訳も分かりますので、会社を強くするためには、ヒト・モノ・カネのどこにいくら配分すれば良いのか分かるようになります。